2026年山梨県の現状
「人がいない」——山梨県の中小企業経営者から最もよく聞く言葉です。しかし問題の本質は採用ではなく、限られた人員で今の業務量をさばける仕組みがないことにあります。山梨県内の中小企業が今なぜDXに取り組まなければならないのか、データで読み解きます。
2025年に山梨県内で休廃業・解散した企業は463件。前年比8.2%増で全国2位の増加率となり、過去10年で最多を更新しました。廃業した企業のうち約3割は黒字のまま廃業しており、経営難よりも「後継者不足」「人手不足」が主因となっています。
黒字でも廃業に追い込まれる——それが今の山梨県の現実です。技術も顧客もあるのに、人を増やせない・作業をさばけないという理由で事業継続を断念するケースが増えています。
2050年、山梨県の労働力は3分の2に減る
問題は今だけではありません。2050年に向けて、山梨県は構造的な縮小局面に入りつつあります。
厚生労働省の推計によると、山梨県の人口は2050年に61万1,586人となり、2020年比で約24%減少します。生産年齢人口(15〜64歳)は2020年の46万7,000人から2050年には約30万人を割り込む見通しで、65歳以上の高齢化率は現在の31%から42%へと上昇します。
- ●現在(2024年): 総人口 約79万人、生産年齢人口 約45万人
- ●2050年予測: 総人口 約61万人(▲18万人)、生産年齢人口 約30万人未満(▲15万人超)
- ●高齢化率: 現在31% → 2050年 42%(10人中4人以上が65歳以上)
つまり、2050年には今より15万人以上少ない労働力で、県内の経済活動を維持しなければなりません。人を増やして乗り切ることは、構造的に不可能に近い状況です。一人ひとりの生産性を上げるしか道はありません。
「採用すればいい」では解決しない
若者の絶対数が減る中で、同じ業種同士が採用を競い合えば、単純に賃金コストが膨らむだけです。採用競争に勝てたとしても、それは近隣の中小企業から人材を奪っているに過ぎません。山梨県全体で見れば、労働力の総量は変わらないのです。根本的な解決策は、既存の人員でこなせる業務量を増やすことです。
山梨県の産業構造とDXの遅れ
山梨県の産業は製造業の比率が全国平均より高いという特徴があります。製造業の従業者構成比は22.1%で全国平均を4.0ポイント上回り、精密機器・電子部品・食品加工などが集積しています。
一方、こうした製造・建設・農業系の事業者ほど、デジタル化が遅れやすい傾向があります。現場仕事が中心で「パソコンは苦手」という従業員が多く、紙の日報・手書きの出荷伝票・口頭での指示が当たり前になっていることも珍しくありません。
全国調査を見ると、中小企業のDX推進を阻む最大の壁が浮かび上がります。
DX人材不足 85.1%
日本企業の85.1%がDX推進人材の不足を課題に挙げています。山梨のような地方の中小企業では、ITに詳しい人材の採用はさらに困難です。
ロードマップ未策定 66%
中小企業の66%がDXのビジョンや推進ロードマップを策定していません。「何から手をつければいいか分からない」状態が続いています。
コスト懸念 31.9%
「費用負担が大きい」が課題の筆頭です。しかし月数千円のクラウドツールから始められる現在、コストより「最初の一歩」の踏み出し方が本当の問題です。
DX推進のビジョンや経営戦略・ロードマップを「未策定」の企業は66.0%。DXを推進する人材が不足していると感じる割合は従業員21人以上の企業で33.5%、20人以下では25.6%に達します。
山梨県では2025年3月から「デジサポ!やまなし」というDX支援プラットフォームが稼働し、県とライフイズテックが連携して大学生のDX人材が中小企業を直接サポートする仕組みも動き出しています。県のDX推進計画も整備されつつありますが、支援を活かすには企業側が「課題を言語化できる状態」になっていることが前提です。
人材採用ではなく既存業務の効率化が鍵
DXを「一気にやろう」とすると、コストも時間もかかりすぎて途中で頓挫します。大規模なシステムを導入したものの、誰も使わないまま月額費用だけが発生し続ける——こうした事例は山梨県内でも珍しくありません。
まず最も困っている業務課題を一つ選んで小さく始めることが、DX成功の第一歩です。
具体的には、こんな取り組みから始められます。
集計・データ処理を自動化
手作業で行っていた集計をExcelマクロやGoogleスプレッドシートで自動化する。慣れたツールの延長で始められ、効果も実感しやすい。
紙の申請をデジタル化
紙の申請書をGoogleフォームや電子帳票ツールに置き換えるだけで、承認フローの時間を大幅に短縮できる。
メール対応を効率化
よくある問い合わせへの返信をテンプレート化・自動返信化する。AIツールを使えば返信文の下書きも自動生成できる。
こうした小さな成功体験を積み重ねることで、社内にDXへの理解と信頼が生まれ、次のステップへ進む足がかりになります。
実例:1日1時間の手作業を3分に短縮した話
私は大学生時代にホテルでアルバイトをしていました。その時、丁度コロナ禍で全国旅行支援が導入されました。予約システムから宿泊者の人数、泊数を調べサービス券の枚数、番号をメモする。番号がずれたらやり直し。——それだけで1日1時間かかっていました。
そこでホテルの予約システムから予約一覧をエクスポートし、Pythonで作成したツールに読み込ませることで、枚数と宿泊者名を自動でExcelに出力できるようにしました。結果、作業時間は1時間→3分になりました。作業時間が20分の1です。
大規模なシステム投資はゼロ。既存のデータを使って小さく作った仕組みで、現場の負担が劇的に変わる——これがスモールスタートの本質です。
スモールスタートのポイントは「測定できること」です。 「週に何時間の作業が削減できたか」「月に何件の入力ミスが減ったか」など、数値で効果を確認できる課題を選ぶと、次への投資判断もしやすくなります。
現場を巻き込まないDXは失敗する
このホテルの事例もそうですが、業務の非効率は上から眺めているだけでは気づけません。実際に現場で手を動かしている人の声を聞いて初めてわかる——だからこそ、現場を巻き込むことがDX成功の最重要条件です。
DXが失敗する最大の原因の一つが、現場の声を無視した「トップダウン型のDX」です。
経営者や外部コンサルタントが選んだツールを現場に押しつけると、「使いにくい」「余計な手間が増えた」という反発が起きやすくなります。どんなに優れたツールでも、現場に使ってもらえなければ意味がありません。
- 現場の担当者と一緒に、日常業務の困りごとをヒアリングする
- 困りごとの中から「デジタルで解決できそうなもの」を一つ選ぶ
- 複数のツールを現場担当者に実際に触ってもらい、使いやすさを確認する
- 小さく試してみて、うまくいったら横展開する
現場が「自分たちで決めた仕組み」と感じられると、定着率が大きく上がります。また、現場からの「こうしたい」という声が、次のDXのヒントにもなります。経営層だけでなく、現場の担当者も一緒に巻き込んでいくことが成功のポイントです。
業種別・山梨県の中小企業が今すぐ始められる第一歩
山梨県の主要業種ごとに、取り組みやすい第一歩を整理しました。
- ●製造業・精密機器: 日報・作業報告のデジタル化から始めます。スマホアプリで記録すれば、現場と事務所のリアルタイム共有が実現し、紙の転記ミスもなくなります。
- ●観光・宿泊・飲食: 予約管理・在庫管理のデジタル化が最優先です。繁忙期のミスや二重予約を防ぐだけで、スタッフの精神的負担を大きく削減できます。
- ●農業・食品加工: 出荷伝票・収穫記録のデジタル化が効果的です。Googleスプレッドシートでの管理に切り替えるだけで、集計・報告の時間が大幅に短縮されます。
- ●建設・土木: 現場写真の整理と日報提出をアプリで一元化します。移動時間が長い業種ほど、スマホ1台でできる効率化の恩恵が大きくなります。
- ●士業・医療・介護: 予約受付と顧客管理の自動化が鍵です。メールや電話対応をAIツールで半自動化し、専門業務に集中できる環境を整えましょう。
いずれも初期費用を最小限に抑えながら始められる取り組みです。重要なのは「完璧なシステム」を最初から求めないことです。60点の仕組みでも、動き始めることで改善のサイクルが回り始めます。
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まとめ
山梨県の中小企業を取り巻く環境は、楽観できる状況ではありません。人口減少・労働力縮小・廃業増加という構造的な課題は、これからさらに深刻化していきます。
しかし裏を返せば、今こそDXで生産性を上げた企業だけが生き残れるとも言えます。人手不足の中でも業務をさばける仕組みを持った企業は、人材確保でも競合他社に差をつけることができます。
- ●山梨県の廃業・解散は2025年に過去10年最多の463件。人手不足が主因。
- ●2050年の生産年齢人口は現在の約3分の2に減少。採用だけでは解決しません。
- ●まず一つの課題をスモールスタートで解決し、数値で効果を確認することが重要です。
- ●現場を巻き込んだボトムアップのDXが定着率を高める最大のコツです。
「何から始めたらいいかわからない」という段階からでも、現状の業務をヒアリングしながら一緒に最適な第一歩を考えることができます。まずはお気軽にご相談ください。
